バブル経済の破綻、リーマンショック、東日本大震災などの影響で資格取得ブームの時代が続きました。しかし近年、人手不足感はあるものの、ゆるやかな景気の回復とともに資格取得ブームにも陰りが見え始めました。難関資格の司法試験、公認会計士試験をはじめ、税理士、行政書士、社会保険労務士など代表的な法文系資格で、年々受験者数が減少しています。理由は長く続いたブームで資格士業者が供給過多になり需給バランスが崩れた上に、IT化やAIの進展で資格士業のニーズが減少したことなどが考えられます。

資格取得ブームの影響で、資格の数は急増しました。先行き不透明な時代、どのような資格を目指すかで将来も大きく変わってしまいます。しかし司法試験、公認会計士などの難関資格は取得するまで多大な時間や努力を要し、コストパフォーマンスの面でもけっしてよい資格とはいえません。一方、テレビCMで盛んに宣伝されているような資格が本当にキャリアアップになるかも疑問です。

情報過多の時代、資格の質やレベルも含めて、資格を自らが判断して取得しなければならない厳しい時代です。そんな中、ぜひお勧めしたいのがリテールマーケティング(販売士)検定試験です。
 

流通業界環境の変化に対応。現場で即戦力を目指す人へ

近年、大手量販店の再編、コンビニ営業時間の変更、EC(電子商取引)の進展など、流通業界を取り巻く環境は急激に変化しています。しかし、小売業がお客様商売である限り、プロの販売員が求められることは変わりません。販売士は多様化した顧客ニーズを的確に捉え、豊富な商品知識や接客技術を武器に、顧客に合った商品を提供することができます。また、商品開発、企画、仕入れ、販売、陳列、物流など効率的に行い、店舗の売り上げに貢献することができる、まさに「販売のプロ」資格です。販売士は商工会議所が実施する検定試験で、流通・小売業界で働く人には必須資格です。
 
2020年代の小売業は、「単に商品を売りさえすればよい」といった発想だけでは生き残ることができません。販売員には常に、高い専門知識や質の高い接客技術が求められています。販売士はスーパー、デパートはもちろん、ホームセンター、家電量販店、コンビニ、専門店など小売業全般で大きなニーズがあります。販売士の資格を取得すれば品ぞろえ、ディスプレイといった商品知識、在庫管理、ストアオペレーションなど商品管理を広く学べるだけでなく、接客技術など専門知識も体系付けて学ぶことができます。販売士は小売業で働く方にはうってつけの資格ですが、流通業界の就職を希望する学生の間でも人気のある資格です。
 
試験は現場の販売員を対象にした初級レベルの3級から、マネージャー・管理職を目指す方対象の2級、店長や部長、経営者を対象にした1級まで3段階あります。年齢・性別・学歴に関係なく誰でも受験可能です。3級は正誤問題と選択問題からなる試験で、初心者でもチャレンジしやすく、合格率もおおむね50~60パーセント程度と取りやすいのも特徴です。
現場レベルの知識を取得する3級から、マネジメント能力も身に付けることができる2級、さらに店長レベルの1級までステップアップできれば、将来、売場の最高責任者を任せられることもあります。また、取得時間や費用などの点から考えたとき、販売士は他の法文系資格と比べて、費用対効果が高いという利点があります。1級以外なら仕事をしながらでも、数カ月から半年程度の学習期間でも無理なく合格することができます。
 
一部の国家資格は取得した時点ではスタートラインにすぎませんが、販売士は現場対応型かつ実践型資格です。コストパフォーマンスもよく、資格の勉強をしながら即、実務に役に立てることができます。取りやすいだけでなく、社内でも強い武器になり、キャリアや即戦力となれることが販売士の最大のメリットです。販売士の学習内容は小売業全般に共通しているため、活躍の場は小売業だけに留まらず、サービス業、飲食業、卸売業、メーカー、商社など幅広い業種・業界で活用することができます。将来、「販売のプロ」を目指すなら必ず取っておきたい資格です。
 
さらに、販売士の資格があると資格手当を付与する企業もあります。また、ファッション業界に進みたいのならカラーコーディネーターの資格を取れば、ディスプレイなどの業務でシナジー効果も期待できます。販売士はキャリアアップのためのベーシック資格としても最適な資格ですが、簿記検定やビジネス実務法務検定などを併せて取得すれば活躍の場もさらに広がります。
 
また、1級まで取得すればスペシャリストやコンサルタントとして活躍の場が広がります。販売士は2015年より、取得できる知識や実務能力をより的確に表すために「リテールマーケティング(販売士)検定試験」に変更され、試験も2級試験が年2回の施行となり、受験しやすい試験制度にリフレッシュしました。販売士は先行きが不透明な時代、資格受験者冬の時代だからこそ取得したい、隠れた実力ナンバーワン資格なのです。
 
 

資格コンサルタント
末木紳也氏

1960年横浜市生まれ。
立教大学社会学部卒業後、食品卸売会社に就職。仕事を続けながら資格取得を目指し、31歳で中小企業診断士を取得。その後、経済産業省出資のコンサルタント会社に転職し、ショッピングセンター、商店街など商業集積を核とした街づくり業務などに取り組む。2002年に独立後は、さまざまな方面から資格の研究を続け、資格に関する独特な理論を展開。近年は資格をテーマにしたノンフィクションや小説にも領域を広げている。著書「間違いだらけの資格取得術」「サバイバル資格活用術」(扶桑社)「プロが教える資格のリアル」「資格貧乏物語」(KKベストブック)監修「資格取り方選び方」(高橋書店)など。ビジネス誌などメディア掲載実績、セミナーも多数。