社員の成長が企業の成長に

わが社の人材育成と販売士への期待-

東京・㈱ヨドバシカメラ社員教育担当 北田 久雄

日経流通新聞平成13年7月19日の2000年度専門店ランキングで、売場面積3.3㎡当たりの経常利益、従業員一人当たりの経常利益とも当社が首位と掲載された。こうした好調な業績を支えるのは、多くのお客様の温かいご支援と同時に、良い商品供給に努力を惜しまないお取引き先各企業のご支援があればこそである。

こうした周囲の方々の期待に応え、継続してご支援をいただけるように、日頃から価値ある商品をより安くお求め頂けるよう、超効率的な経営戦略の展開やそれに基づいた業務改善の努力を徹底的に行っている。

また、ヨドバシカメラ独自の職務成果主義による高いスキルとモチベーションを持った社員が、その力を十分に発揮できる環境づくりに全社一丸となって取り組んでいる。特に、ヨドバシカメラの人材育成策の根幹は、社員個人の成長が高い次元で企業の成長と一致し、それが同時実現できることを目指している。

社員自ら挑戦項目を決める

そのためには一人一人の社員が、プロの販売員としてステップアップしてお客様のニーズに対応できる仕組みづくりが必要になる。ヨドバシカメラでは、お客様が販売員に期待する仕事の内容をそれぞれのレベル毎に細分化し、成長の指針を明確に打ち出し、自分の職責に応じて、その指針を目安に、自らの最重点挑戦項目を決定し、毎日の業務の中で実践していくシステムになっている。
年2回その成果を職場上司と確認する機会が持たれる。その結果、評価反省を踏まえ、自己の成長度合いが確認でき、前向きな気持ちを持って仕事に取り組むことができるようになり、活気あふれる接客応対に大いに役立っている。

販売は究極的には人間性の問題に集約される。仕事に生きがいを感じた社員がプライドを持ってその力を発揮できる集団づくりが,目指す人材育成策である。社員個々の能力は異なっているものの、成長した個々の能力を集団の能力として結集させ、それをお客様のために活かすことができて企業は成長し続けるのだ。
それもカンパニー・オーダーではなく、社員が自らお客様満足のマーケティングに主体的に取り組める環境が社風としてあればこそ、可能になる。

知識・情報化社会の中、小売業の仕事は、常にお客様とのコミュニケーション無しでは遂行できない。それは顧客ニーズの先取りや商品供給部門に対する需要情報のフィードバックを行う上でも欠かせない。ヨドバシカメラの仕事は、お客様とのコミュニケーションを通して、新しい価値ある商品とサービスをこの広大な個人市場に向かって最先端で提供し続けていくことであると考える。

日本一を目指して研修

「お客様に信頼される販売ノウハウを市場の変化に合わせた新しいノウハウとして、その時々の変化に素早く対応させ、しかも、顧客ニーズを正しい形として表にあらわすことができる社員」をテーマとして社員教育に専念している。現在、社員研修は「接客サービス日本一を目指す具体的な方法」という今期の研修テーマに従い、毎月全社員が約50のクラスに分かれて、顧客満足追求型マーケティングを実践している企業の実例等をもとに、自社の特色を鮮明にするための具体的な方法の講義や、実践で得た貴重な経験をもとにした意見発表や検討会に熱心に取り組んでいる。また、全社員が①接客・サービス、②品揃え・売場づくり、③商品知識・商品情報の自分の得意分野を生かせる3つの研究チームの何れかに所属し、例えば、①接客・サービスであれば、接客のスタートポイントの再発見、②品揃え・売場づくりであれば、計画に基づいた重点商品の構成や売場展開のあり方、③商品知識・商品情報であれば、商品の基礎知識の習得トレーニングをはじめ新製品・重点商品の習得トレーニングといった各チームの課題に沿って、各所属部署ごとにそれぞれのプロを目指し研修に余念がない。
当然その成果をまとめ、全支店の代表社員が一堂に集まり、発表会を開催し互いの研究成果を確認し合い、全社員の成長のための良い機会を作っている。そういった研修のそこかしこに、販売士資格取得のため学ぶ諸々の考え方が活かされている。

3級合格率は90%

現在、当社に一年以上在籍している社員(今年4月入社の332名の新入社員を除く)は1,578名おり、その74.1%の1,169名が既に販売士の資格を取得している。販売士資格者は全員、各自のネームプレートに「〇級販売士」と明記されている。
社員はその資格に恥じないよう業務に邁進している。文字通り、「販売士が活躍する店」と自負している。毎年200名前後の社員が販売士資格試験に挑戦しているが、ヨドバシカメラ社員が初めて販売士資格試験に挑戦したのは、昭和60年2月21日に実施された第15回3級販売士資格試験である。その時47名の社員が受験し全員が合格した。それ以来、17年の間継続し、現在に至っているわけだが、ちなみに、第40回から第48回まで、最近5年間の3級販売士受験状況は、1,048名受験し946名の合格者(平均合格率90.3%)がでている(別表参照)。

販売士検定試験で学ぶ内容は、すべて販売員の行動基準であると考えている。社員教育と連携させて進めていくと、お客様に喜んでいただける仕事の成果を効果的、効率的に生み出すための知識や技術を整理された状態で体系的に習得できるため、小売商業で働く個人の自己啓発や接客業務の基礎づくりの一環にも役立ち、社員教育には欠かせない。競争激化でかつてなく厳しい小売業界において、その水際でしのぎを削る社員の資質向上こそ、企業業績を向上させる最良の方法であろう。そのためにも、資格を取得した社員が販売士としての誇りを維持向上できるよう、この資格の存在や目的、効果などを多くの人に認知してもらえるような販売士制度のあり方や位置づけをお考えいただき、より一層のご努力を日本販売士協会にお願いしたい。

過去5年間の3級販売士受験状況

試験実施日 受験者数 合格者数 合格率
第40回 平成9年7月9日 108名 100名 92.5%
第41回 平成10年2月18日 108名 95名 87.9%
第42回 平成10年7月8日 98名 83名 84.6%
第43回 平成11年2月19日 118名 114名 96.6%
第44回 平成11年7月14日 136名 126名 92.6%
第45回 平成12年2月16日 99名 91名 91.9%
第46回 平成12年7月12日 123名 116名 94.3%
第47回 平成13年2月21日 134名 105名 78.3%
第48回 平成13年7月11日 124名 116名 93.5%

(登録講師)
『販売士』2001年9月号