伝統工芸品「印伝」の普及にも販売士が活躍

株式会社印傳屋上原勇七外観

鹿革に漆で模様をつける「印伝」。語源こそ「印度伝来」だが、武士がたしなみとして巾着やたばこ入れに用いた日本の伝統工芸品だ。そのメーカーの代表格が「印傳屋 上原勇七」。本能寺に信長が散った天正10(1582)年の創業以来、社長は代々上原勇七を襲名し、現在は十三代目である。

戦後、同社はターゲットを女性へと転換し、伝統技法を活かしつつ、小桜、青海波、とんぼといった伝統柄の小物に加え、ファッショナブルなハンドバッグなどを展開。着実にファンを増やし、顔の見える顧客は7万人に達するという。それでも印伝は数年前まで和装小物扱いで、百貨店ならきもの売場に並んでいた。
それが近年は好みが多様化し、若い男性を含む広い客層からハイファッションなグッズとして注目を集める。たとえば鉄腕アトムやJR東日本、慶應義塾のシグネチャーアイテムを限定発売したり、羽田や成田の免税店に並んだり。今年3月に伊勢丹で販売したグッチとのコラボレーションによるバッグは、瞬く間に完売した。

印傳屋のハンドバッグ

「最近はお客様にご迷惑をかけているのではと苦慮している。ただし、急に売れたからといって、無理に作りはしない。一緒に歩んでくださる昔からのお客様が優先」と取締役の出澤忠利氏は語る。
印傳屋は、本社のある山梨県甲府市に加え、東京・青山、大阪・心斎橋、名古屋・御園に直営店をもつ。これら直営4店に加え、本社の事務所でも、販売士が活躍する。

印傳屋の和装小物

販売士資格の取得のための勉強会や学校に通う費用は会社負担。学ぶ過程で基本的な考え方がよく分かり、血となり肉となる。しかも社員同士で切磋琢磨する雰囲気が高まる。現場で判断に迷ったときでも、何かのきっかけで「学んだことは正解だった」と自信になるケースが多いという。資格取得により、当社在籍中はもちろん、退職後にも学んだ誇りや自信を持てれば、と出澤氏。
このように現場に活気をもたらしている販売士資格だが、かつて甲府販売士協会で会長を務めた出澤氏は「特定業界での認定資格への流出を防ぐためにも、モノの売り方のおもしろさを経験できる、現場主義のカリキュラムがあればいいと思う」と提言する。知る喜びだけでなく、お客様の反応を見る喜びこそ、販売士検定の「市場」である企業や販売員のウォンツではないか。たとえば動線や色の並びを買えるだけで、ショップがまるで輝いて見えることもあるのだから。
<平成27・28年度広報委員 黒田一樹>

会社概要等

会社名 株式会社印傳屋 上原勇七
本社所在地 〒400-0811 山梨県甲府市川田町アリア201
代表者 代表取締役社長 上原重樹
従業員数 84名(2016年2月現在)
売上高 29億6,500万円(2016年2月)
資本金 4,000万円
創業 1582(天正10)年、創立:1953(昭和28)年
事業内容 印伝を用いたバッグや小物類の製造販売

販売士有資格者数(2016年2月現在)

1級1名、2級2名、3級5名