実社会に求められる資質の礎の育成

集合写真1

1 学校紹介
 岐阜県立土岐商業高等学校は、1949年(昭和24年)に創立された、県内でも指折りの単独商業高校である。「明朗闊達 質実剛健」の校訓のもと、地域や社会に必要とされる人材の育成に努め、歴史と伝統を築いてきた。現在、ビジネス情報科(システム管理コース、アプリケーションコース)、ビジネス科(マーケティングコース、会計ファイナンスコース、コミュニケーションコース)の2学科があり、2年次になるとそれぞれの学科でコース選択をして商業のより専門的な内容を学ぶことができる。

2 リテールマーケティング検定の学習の取り組み
 2年次にマーケティングコースを選択した生徒は、「マーケティング」科目、「広告と販売促進」科目においてリテールマーケティング検定3級の学習をしている。また、3年次は発展的な学習として、リテールマーケティング検定2級の学習を選択した生徒が、同2級の取得に取り組んでいる。
 2年次に3級全員合格を目指し、3年次に2級の学習を選択した生徒がその合格を目指すというのが本校のシステムである。(イメージ図参照)

イメージ図

 また、2年次に取得したリテールマーケティング検定3級の知識を活かして、3年次に実践的な学習へと発展させることも、本校の学習の取り組みの特徴である。

3 実践的な学習の取り組み
 本校では2年次にマーケティングコースの生徒がリテールマーケティング検定3級を受験するが、この学習の取り組みは、単に資格取得が目的ではない。前述のように、将来、地域や社会で活躍する人材を育成することを目的に、3年次、商品開発や販売実習、地域と連携した取り組みなどを探求し、つながることが、学習の意義であると考えている。
 以下に示すのは、令和3年度の3年生の探求型の取り組みの一部である。
(1)高校生の挑戦!日本一の美濃焼に再び光を
 この取り組みは、土岐市の地場産業の「美濃焼」に光を当てるべく、本校生徒が主体となって地域と連携し、地場産業再興のために活動するプロジェクトである。具体的には、地元の陶器メーカーにご協力いただき、本校生徒の企画で製品を考案し、その製品化に必要な資金を集めるためクラウドファンディングを実施。目標金額達成後の超過分は、来年度参画予定の陶器市に還元することで、人と地域が繫がる仕組みを構築するものである。
 プロジェクト達成のために、直接土岐市役所へ出向いてプレゼンテーションを実施するなど、地場産業について自ら学び、考え、足を運び、自分の声で伝え、実践していく姿は目を見張るものがあった。生徒がこれまでの学習で得た商業の知識をさらにバージョンアップさせ、一生懸命取り組む姿は、まさに将来の地域の担い手にふさわしいものであった。
美濃焼
(2)サイダープロジェクト
 地元の酒蔵のご協力のもと、ご当地サイダー(通称:土岐商サイダー)の開発に着手。酒蔵が作る既存のサイダーのラベルを本校生徒が考案し、ご当地サイダーへと昇華させる地域活性化に繋げるものである。開発から販売や流通の流れを学ぶ商品開発で終わらせずに、ご当地サイダーを通して、人と人、人と地域が繫がる仕組みを構築した。具体的には、購入者に土岐商サイダーを片手に、土岐市内で撮影した“映える写真”を、Instagram上で「#土岐商サイダー」を付けて投稿してもらうサイダーフォトコンテストを実施。その後、本校、地元企業、土岐市産業振興課で、選考を重ねて入賞者を選定し、授賞式を開催して入賞者に記念品を授与した。
 商品開発というと、商品を企画して、販売して終わりのような活動が一般的ではあるが、ご当地サイダーを軸に、人と地域のエンゲージメントを高める取り組みを実施した。
サイダー
(3)販売実習 土岐商SHOPの取り組み
 本取り組みは、校内外で、販売ブースを設け行う販売実習である。仕入計画、製品計画、陳列や販売までの流れを生徒が考え、これまでの学習を実践につなげる。また、本校のブランド力の向上や、商品を企画する力を育てることを目的として、毎年「土岐商タオル」を自ら考えて販売することにも注力している。これらの活動は、どれもリテールマーケティング検定で培った経営のスキルやノウハウを活かし、マーケティングの知識を上積みするものである。これらのプロジェクトは土岐市を中心に大きな動きとなっている。
SHOP

4 ネット試験方式への移行を受けて
 2021年度から、リテールマーケティング検定は、これまでのような一つの会場に集まり一斉に受験するペーパー試験方式から、試験会場のパソコンを使用し、インターネットを介して受験するネット試験方式へと試験方式が変更となった。ネット試験方式には、個人がインターネットを介して受験の申込みを行う「個人受験」と、販売士養成講習会の実施団体が、施行要件を満たせば当該団体内のパソコンルーム等を会場として試験の施行が可能となる「団体受験」がある。本校は団体受験を選択した。
 リテールマーケティング検定を校内でネット試験方式で団体受験することについては、戸惑うことが多かった。各種手続きもさることながら、学校での団体受験が可能なのか、ネット試験システムがうまく稼働するのか、など不安要素はたくさんあった。何度も日本商工会議所と地元の土岐商工会議所に連絡を取りながら準備を進め、試験当日は無事にネット試験を完了することができた。今回の経験は、今後に繫がる大きな一歩になったことは間違いない。
 一方、団体受験については、運営や生徒にメリットもあった。加えて、ネット試験方式に移行したことによる検定試験の変更に対応した試験対策を行ったことで、合格者を数多く輩出することができた。以下にそれをまとめた。

【ネット試験方式による団体受験のメリット】
①年間を通して団体受験の施行可能な期間が設定されている。
⇒毎月の定められた期間内で、団体受験の実施時期を学校の裁量で決めることができる。団体受験の施行日は、団体ごとに各月の期間内で1日のみで、同一団体における1年度内の団体受験は2日まで施行可能となっている。
②全科目受験の場合は、受験後すぐに試験結果と合否がわかる。
⇒受験者の理解の定着度をすぐに把握することができる。
「科目合格(1級)」「科目免除(2級・3級)」の各制度を利用する場合は、日本商工会議所で各種証書の確認作業が必要となるため、試験日の約14日後に結果が確定する。
③受験者の試験結果をシステムで一元管理することができる。
⇒決められたフォーマットを使った受験者名簿の作成などの手間はかかるが、試験結果などをシステムで一元管理することができるため、総合的に見れば運用しやすいシステムであった。
④試験時間の短縮に伴う問題数の減少。
⇒全ての範囲から網羅的に出題されることが事前に予測できたため、試験対策が講じやすかった。
【主な試験対策】
①ネット試験方式は過去問題が公開されていないが、前述のとおり、全範囲から網羅的に出題されることが予測できたため、これまでのペーパー試験方式の過去問題の穴埋問題や用語の整理に集中して対策を講じた。これは穴埋問題ができれば正誤問題はある程度網羅できるという判断によるものである。
②試験時間が短くなったことから、問題を解くスピードを意識させた。結果として初めて
のネット試験で、試験開始後に解答の入力に戸惑う生徒も数人いたが、大多数の生徒が
時間に余裕を持って解くことができ、かなりの時間を見直しに充てることができた。

5 生徒の声
○2年生
・パソコンでの受験は初めてだったが、困難もなく受験することができた。穴埋問題や用語の整理を中心に試験対策をしたこともあり、苦手意識なく受験することができた。また、3年生の先輩からアドバイスをいただく時間もあり、目標を持って学習を進めることができた。
・試験当日は、ネット受験で焦りと緊張があった。正直、解答しにくかったと感じたが、見たことのないと感じた問題はなく、難しいとは思ったものの落ち着いて解くことができた。最後まで冷静に解答することができた。
○3年生
・昨年度、リテールマーケティング検定の勉強をしたことが、今年度の実践的な学習に繫がっていることを実感した。消費者の視点だけでなく、経営者の視点や、社会全体の視点で物事を考えることで、新しい商品の企画や実践に活かすことができた。
・自分が経営者となった時など、リテールマーケティング検定で学んだ知識を活かしたい。また、今後さらに経験を重ねていくことで、時流に合わせて知識をアップデートしていきたい。来年度から社会人となるので、マーケティングコースで得た学びを活かして、社会の即戦力になりたい。

6 指導者からの意見
 本校では、1年次で「マーケティング」科目を学び、全国商業高等学校協会主催商業経済検定2級を大多数の生徒が取得する。マーケティングに対する基礎と基本を習得させ、2年次よりマーケティングコース選択者はリテールマーケティング検定の学習に取り組みやすい環境を整えている。このような背景が、本校生徒のリテールマーケティング検定の合格率の向上に繫がっていると考える。
また、単に資格取得のための講義をするのではなく、実社会での実例などを交えて授業を行っている。具体的には、身近な小売店舗のフロアレイアウトや陳列を例として、なぜそうなっているのか、また、時代とともにどのように変化していったのかなど、考え、予測し、答えを導き出す指導を行っている。また、講義形式で指導するだけでなく、2年生と3年生のマーケティングコース選択者同士が教え合い、情報を交流させる縦割りの時間を設けるなど、コースとして生徒の実力と興味関心を引き上げる工夫をしている。先述の生徒の声にもあったが、この縦割りでの授業は実に有意義であったと感じる。
このように、1年次からのマーケティングの学習が、2年次のリテールマーケティング検定受験に繋がり、3年次の発展的な学習へ昇華していく本校の学習システムは、リテールマーケティング検定受験の意義をさらに高めるものであり、実社会で活躍する人材を育成する原動力となっている。今後もこの検定学習を通して、より社会から求められる土岐商業生を育てていきたいと考える。

7 これからの商業教育とリテールマーケティング検定
 人と人、人と社会、人と地域との繫がりの大切さが希薄になりつつある昨今、コロナ禍をはじめとする様々な社会情勢の変化に、私たちは対応しなければならい。このリテールマーケティング検定は、私たちに、経営者の視点、あるいはマーケティング専門家の視点として、学習する機会を提供してくれている。この検定学習を単に検定合格のためだけの学習に留めるのではなく、より発展的で進展的に展開していきたいと私たちは考える。最後に、今後の本校の取り組みにもご注目いただければ幸いである。

<寄稿:岐阜県立土岐商業高等学校 商業科 伊藤 陽介氏>

学校概要等

学校名 岐阜県立土岐商業高等学校
所在地 〒509-5122 岐阜県土岐市土岐津町土岐口1259-1
創立 1949年(昭和24年)
設置学科 ビジネス情報科、ビジネス科
在籍生徒数 499名(2022年2月8日現在)

リテールマーケテイング(販売士)検定試験合格者数

2021年度 3級57名
2020年度 3級41名
2019年度 2級6名、3級31名
2018年度 2級2名、3級27名
2017年度 2級15名、3級33名